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「塩を少々」は料理を変える!意外と知らない「少々」の秘密 ~電解質効果の話~ 【科学を知れば料理はもっと楽しくなる】

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こんにちは。ヒッサンです。

今回は、料理のレシピにおいて「塩を少々」という一文が秘める驚きの効果についての話をしていきたいと思います。

 

「塩を少々」というのは味付けなのでしょうか?

でも、例えば、スープに「塩を少々」したところで一体どれほどの味の変化があるでしょうか。とても変化があるようには思えませんよね?

 

でも、実は「少々」によって驚きの変化があったんです!

 

この「少々」という一見して役に立たなさそうな一文を、一躍レシピの重要な功労者としている要因は、「電解質効果」というものです。

なに言ってんの? 大丈夫です。ちゃんとわかりやすく解説していきますよ!

 

電解質効果は塩に限ったものではありませんが、今回はわかりやすくするとともに、最もレシピ中で使われるであろう、塩に焦点をあてて説明していきます。

 

それではいきましょー!

 電解質効果って何?

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さてさてさっそく電解質効果について説明していきます!

と、言いたいところなんですが、その前に電解質効果を知るためには、3つのことを学ばなければいけません。

それは「溶解」、「電離」、「平衡」についてです。

ちょこっと長い説明になりますが、そんなに難しい話ではありませんよ。

1つずつ見ていきましょう。

 

溶解

ものが「溶ける」という言葉をよく使いますが、ものが「溶けている」状態では一体なにが起きているのでしょうか。

 

まず、なにかをなにかに溶かすとき、溶かす側の物質を溶媒、溶かされる側の物質を溶質といい、2つを合わせたものが溶液となります。

例えば、食塩水なら、水が溶媒であり、食塩が溶質である*水溶液となるわけです。

水溶液・・・溶媒が水の溶液を特に水溶液という

 

化学的に「溶ける」という状態は、溶質がバラバラになり、溶媒に囲まれることを言います。そして、このように溶質が溶媒に溶けることを「溶解」といいます。

電離

塩を例にして考えましょう。

塩は*化学式で表すと、NaClと表すことができます。

化学式・・・ある物質をその構成しているもので表す表記法

 このNaClが水に溶解するとき、そのままNaClが水に囲まれるわけではありません。

 

実はNaClというのは、Na⁺(ナトリウムイオン)Cl⁻(塩化物イオン)という2つの*イオンがくっついてできたものなんです。

イオン・・・プラスかマイナスに帯電した小さな粒のこと。プラスかマイナスを右上に書く。

そして、NaClが溶解するときには、Na⁺とCl⁻に分かれてしまいます。そのため、塩は水溶液中では、Na⁺とCl⁻の形で存在します。式で表すと以下。

NaCl → Na⁺ + Cl⁻

 このように、溶解するとプラスのイオンとマイナスのイオンに分解するものを電解質といい、電解質がイオンに分解することを「電離」といいます。

 

あと1つですよー!

平衡

ちゃんと学ぼうと思うと、やっかいなことこの上ない平衡ですが大丈夫!さらっといきます。

 

電離のところで、塩は水溶液中ではNa⁺とCl⁻の形で存在するといいました。このような電解質は他にもたくさんあります。

 

例えば、酢酸!(何それ?と思った人!お酢ですよ。食酢は酢酸の水溶液です。)

酢酸は化学式で書くとCH₃COOHとなります。長いですね…。

水溶液中では、以下のように電離します。

CH₃COOH ⇄ CH₃COO⁻ + H⁺

 あれ?さっきとなんか違わない?と思った人はよく見てますね!

その通り。NaClの電離の様子とは少し違います。何が違うのでしょうか?

 

実は、NaClとCH₃COOHでは、電離のしやすさが違うんです!

 

例えば、100個のNaClが水の中に溶解したとき、すべてのNaClが電離します。そのため、水溶液の中には、Na⁺とCl⁻が100個ずつ存在するわけです。

 

しかし、CH₃COOHは同じようにはいきません。100個のCH₃COOHの中で電離しているのはなんとたったの1個だけです。

ですが、勘違いしてはいけないのが、決まった1個が常に電離しているのではなく、絶えず、CH₃COOHとCH₃COO⁻+H⁺の状態を行ったり来たりしているんです

つまり、

CH₃COOH → CH₃COO⁻ + H⁺

CH₃COO⁻ + H⁺ → CH₃COOH

という2つの反応が同時に起きているわけです。

このように2つの方向の反応が同時に起きているとき、ある現象が起きます。

 

二つの反応の起こる速度に注目してみましょう。

例えば、バレーボールのコートを想像してみましょう。

ネットを挟んだ両側にそれぞれA君とBさん、そして50個ずつのボールがあるとします。

2人はそれぞれもう一方のコートにボールを投げ入れ、投げ返しあいます。(仮定の話なので、2人はずっと疲れず、投げる速度は常に一定です)

ここでもし、2人の投げる速度がまったく同じならどうなるでしょうか?

2人はボールを相手のコートに投げますが、同じタイミングでボールがかえって来ますよね?。

結果として、両側のコートには常に50個ずつのボールがあることになります。

これは、2人がボールを投げていない状態と同じといえます。

 

もう1つ例え話をしましょう。

上と同じ状況で、今度はA君のボールを投げる速度がBさんのそれより圧倒的に速かったらどうでしょうか?

2人がボールを投げ始めるとすぐにA君は自分のコートのボールを投げ終わってしまいます。

そして、Bさんが投げてきたら、またすぐに投げ返します。

結果として、Bさんのコートにはおそらく100個のボールが、A君のコートにはボールはないでしょう。

これも、上と同じように2人がボールを投げていない状態と同じといえます。

 

このように、反応は起こっている(ボールは投げ合っている)のに、反応が起こる(ボールを投げる)速度が等しいので、見かけ上は変化がない(ボールを投げあっていない)ように見える状態を平衡状態といいます。

電解質効果

やっと電解質効果の説明ができます。

 

平衡のところで、酢酸は水溶液中で下のように電離するといいました。

CH₃COOH ⇄ CH₃COO⁻ + H⁺

 

さて、ここに塩を入れたらどうなるでしょうか?

もちろん、酢酸が電離する反応と塩が電離する反応は別のものです。

しかし、なんと塩が入ることで、酢酸の電離に影響を与えるんです!

 

重要なのはイオンだということ。

 

塩と酢酸が溶解した水溶液の中には、以下のものが存在します。

  • Na⁺
  • Cl⁻
  • CHCOO⁻
  • H⁺
  • CH₃COOH

※正確にはさらにOH⁻がありますが今回は無視

 

この中で、注目すべきはNa⁺とCH₃COO⁻です。

この2つはプラスとマイナスなので、互いに引き合います。引っ付くほどではないですが、確かに引き合います。

すると、CH₃COO⁻は水とともにNa⁺にも囲まれることになります。

 

溶解のところで、ものが溶けるというのは溶質が溶媒に囲まれることだと説明しました。

そして、その囲みから抜け出すことで、酢酸の電離の逆の反応が起こるわけです。

しかし、塩も溶けている水溶液中では、CH₃COOH⁻はNa⁺にも囲まれているので、その囲みから抜け出しにくくなってしまいます。

結果として、CH₃COO⁻がCH₃COOHに戻る反応の速度が遅くなるわけです!

 

すると、平衡状態にあった酢酸の電離反応とその逆反応は見かけ上止まっているだけで、実際は反応は起きているので、相対的に電離反応の速度が速くなるわけです。

つまり、CH₃COO⁻とH⁺が増えるということ!

 

このように、平衡状態にあるものが、溶液内にある他の電解質の影響を受けることを電解質効果といいます。

 

はい、説明終わり!本当に長かった…。

やっと料理の話に入れます!次からが大事!

 

料理にどんな影響があるの?

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人間は基本的に、溶けているものしか味を認識できません

おいおい、何言ってんだよ!固体のものもおいしく感じるよ!って?

それもちゃんと、溶けています。口の中には唾液がありますよね。

 

ものを食べて、咀嚼し、細かく分解されて小さくなって食べ物が唾液に溶け、それを舌などにある器官がキャッチすることで人間は味を感じています

 

上の酢酸だと、CH₃COOHは味を感じることができませんが、CH₃COO⁻は認識できます。

これは、他のものでも同じで、例えば「うま味」を呈するものとしてグルタミン酸ナトリウムが有名ですが、味として感じているのは、グルタミン酸イオンの部分なんです。

「甘味」では、以前、科学を知れば料理はもっと楽しくなる 冷やすと甘くなるのは本当だった!? ~果物の話~ - ヒサログ という記事で紹介したフルクトースなんかがありますが、これはイオンにはなりません。でも、細かい説明は省きますが、分子内で少ーしだけ電荷を帯びており、味を感じることができます。

 

このように、人間が味を感じているものは、溶液に溶けたイオンやそれに類するものなんです。

 

ここで、電解質効果の出番です!

酢酸やグルタミン酸ナトリウムが入っているスープに「塩を少々」入れてやることで、電解質効果が起きます。

結果、より多くの酢酸やグルタミン酸ナトリウムが電離し、その味がよりはっきりと強くなるわけです

もう「少々」の秘密がわかってきましたね?

 

つまり、「塩を少々」には、味をはっきりとさせる効果があったんです!

これなら、確かにレシピに載せる意味は大いにありました。この「少々」はとても大事な部分だったんですね!

 

※ちなみに、もちろん、塩が多くなればなるほど電解質効果は大きくなります。

しかし、同時に塩味も強くなってしまうので、あまりお勧めできません。

うま味や甘味のためにすべての料理が塩辛くなってもいいなら別ですが…。

 

まとめ

これで今回の話はおしまいです。

説明が長くなってしまったので、まとめていきます!

 

  • 溶質がバラバラになり、溶媒に囲まれることを溶解という。
  • 溶質が溶解したとき、イオンに分かれるものを電解質といい、電解質が分離することを電離という。
  • ある反応とその逆の反応が同時に起こり、速度が等しくなっている状態を平衡状態という。
  • NaClなどの完全に電離する電解質が同じ溶液内の平衡状態の物質に影響を与えることを電解質効果という。
  • 「塩を少々」によって電解質効果が起き、味物質がより多く溶けだすことによって味が強く、はっきりとする。

 

うーん…。本文が長かった分、まとめも長いですね。

 

「少々」の秘密、いかがでしたでしょうか?

なんだか味がパッとしない、そんなときはぜひ「塩を少々」入れてみてください!

 

ありがとうございましたー!